2023年度
カフェ流るショパンにふっと春愁
春雨の粒散る窓を眺む午後
見つめれば痘痕隠して春の月
北南向き吹き替えて春の風
鳶の輪を見て人の和を想う春
欄干に白いオブジェか春カモメ
寄す波の飛沫や薫る春の海
鬼という心の闇に豆を撒き
駅降りて余寒と歩く夜の帰途
春節の人吐き出して中国航空
人の世も群れて漂い鴨の陣
天空に凛と浮かぶや冬銀河
初夢は悪夢となりて能登の郷
北風吹かば猿入浴の地獄谷
ぼろ市にペルシャの長き水煙管
猫の目に人の世如何に漱石忌
舟をこぐ手にはニーチェか日向ぼこ
残り日の数に追われて年用意
蜜柑山夕陽を影に瀬戸の海
牌楼の灯に華やいで年忘れ
落葉踏む人それぞれに踏む歴史
路地裏の垣ひっそりと姫椿
菰巻きの松を影絵に城ヶ島
鎌倉の車夫の綿入れ今朝の冬
人波に熊手や揺れて酉の市
秋晴れというあっぱれの如きもの
ハッブルで探る銀河や裏表
長針と短針遅々と秋の夜半
洋梨と洋酒器用に洋菓子舗
体験で打つ新蕎麦の色香り
墓洗う空ひゅうひゅうと千の風
秋の夜に聴く一枚のコルトレーン
残暑増すドリルの音や工事道
朝窓を開ければそっと秋の風
古里は車窓に山と鰯雲
大輪を夜空に生けて大花火
コロナはや帰り支度の今朝の秋
人生も片陰のあり街景色
奥社にて聞く郭公の木霊かな
夏の夜に聴くラプソディーインブルー
輪道を走れば流る夏木立
街の夜の灯りも消えて雷光る
白泡のこぼれジョッキや玉の汗
青い目に鬼灯市の赤眩し
力瘤ムキムキ見せて雲の峰
民家園庭に小風や夏座敷
空の色映して青し手毬花
軒先に置き配ひとつ梅雨の空
花摘みの乙女一目と菖蒲園
雲の峰眺む園児や散歩カー
猫パンチ届かず空を鯉幟
緑道に影戯れて黒揚羽
木々を背に山道燃ゆる躑躅かな
うっすらと汗ばみ登る坂薄暑
ゴッホ絵の続く車窓や麦の秋
ミサイルにめげず花咲くドニエプル
元寇や空押し寄せて降る黄砂
琴線に触れ聴くチェロや春愁
切通し抜けて尋ねる古都の春
うぐいすの声道連れに上り坂
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2024年度
車窓より望む田浦や枝垂れ梅
幼少の思い出祖母と蓬餅
如月を踏んづけ歩く散歩かな
春雨のけぶる港に染む汽笛
一人急く家路を照らす朧月
大雪の予報にひそと春立てり
蝋梅の香に誘われて寺の庭
風強く吹く風強く春一番
心待ち心置きなく梅の花
吹く風に襟を立てたる余寒かな
鐘の音に想ひや如何に除夜の能登
成人の祝辞も空に見るスマホ
箱根路を夢に走りて寝正月
人は皆道それぞれに去年今年
遥かなる山を影絵に初茜
第九聴くホールに香る師走かな
裏表なしに道散る木の葉かな
薄墨を空に流して冬ざるる
小春日の窓辺や猫の指定席
欄干の朱に白添えて冬かもめ
同郷を誼む蜜柑に有田皿
山頂で観る山並みの夕紅葉
台風の眼に目を凝らす予報かな
人波にもまれ漂ふ熊手かな
竜灯も夜春節の中華街
リュック背に歩く野山を秋の声
月影にはて空耳かドビュッシー
当世も餅は手打ちか月うさぎ
足一本案山子や打ちげ本塁打
谷間の山家にひとつ秋灯し
子規の顔似てずっしりと洋の梨
魚跳ねて波紋や一つ秋の水
水色の空に一刷毛秋の雲
客船の大桟橋や今日の月
子規庵の庭訪ふ人や糸瓜棚
武器持たぬ誓いは何処終戦日
行く人の傘をおちょこに台風過
聖火台空に浮かびて夏五輪
秋立つや風にうなずく庭の花
ぶぶ漬けを出すも居座る残暑かな
じいじいと蝉に言はれて知る齢
風鈴の音色かそけし風の詩
海の日といえども乙に山歩き
とりあえず先ずはビールと閉ずメニュー
片陰に入りて無となり己が影
駅募金ちゃりんと能登へ響く夏
緑陰の木々の揺らぎや渡る風
あじさいの融通無碍や禅心
太陽に砂粒光る夏の浜
せせらぎに水車木道花菖蒲
露寇にも耐えて今年も麦の秋
夏蝶の影にまとわりて遊歩道
老鶯の声も景色と見る眺め
富士山を切り取り初夏の写真帳
森の香を包みてほのか柏餅
教会にバロック流る春の午後
香る葉もいい塩梅に桜餅
見る人に心たゆたう花筏
絨毯を黄色に敷きて花菜畑
鶯の読む経聴きて山の寺
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2025年度
田植え待つ水田にどんと逆さ富士
梅雨空に窓付く雨を見る子猫
首輪解く犬や躍りて夏の浜
老鶯の声や移りて森の奥
バチカンにのぼる煙や夏広場
生きるとは旅をすること鼓草
吹く風と何を語るや雪柳
春の日の光ぽとりと落つ窓辺
眺め見る人それぞれに散る桜
書き割りを抜け出し空に春の雲
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