2023年度
浅春の分水嶺より水の旅
故郷は川近き里つくしんぼ
ふたつみつ痛みを包む春ショール
潮騒を遠くに蛤椀に咲く
あれそれの答えあれそれ山笑う
生涯を逃げないつもり春の雪
貝寄風や逢わねばならぬ友のあり
植木鉢割りて鎮まる春一番
引き潮の曳き残せしや桜貝
ふたつみつ河津桜の開き初む
白鷺の翔ちし光や桂川
冬麗の天橋立浪高し
小半日友の愚痴聴く女正月
切に祈る逃げられぬ地へ春よ来い
久に訪ふ高千穂峡の小雪かな
一息つく能見堂跡冬すみれ
良いことの無かったひと日冬の虹
冬晴れの只中にありケアホーム
ありがとうをクルクル丸め古暦
終章のかくもかろやか紅葉舞ふ
存分に鳥たちへやる今年柿
まず一灯てっぺんの赤寒椿
青空へ伸ばす脚立や富有柿
ハロウィンの渋谷にDJポリスかな
起き上がり起き上がりして秋桜
遠景に富士浮かびゐる花野かな
信濃路の石仏に沿ふる野菊かな
厨の灯消して書を読む良夜かな
秋風の小町通りの醤油の香
良く笑う友を誘いて花野かな
牧の馬たてがみ吹かれ野分かな
はるばると陸奥へ来て残暑かな
陸奥の棚田へ届く月の脚
頬でる風の幾筋秋立ちぬ
夫呼ばな窓のあなたの今日の月
海はもう見るためのもの夏休み
病み抜けし友へピンクの夏帽子
田の水のほのかに白し星月夜
いつよりか一人に余るかき氷
星月夜動くもの無き過疎の村
忌日来るひらひらと来し黒揚羽
梅雨空撃つ青き玉欲し指鉄砲
恥じらいの失せし木々の葉万緑す
きらきらと飛魚とぶ波間カーフェリー
さらさらと聞き流す愚痴ところてん
前後ろ薄笑う壁五月病
雑草の個性輝く五月かな
ビルの谷間に捨てられし明日五月病
頬なぞる五月の風に緑の香
頬杖の角度薫風受く角度
あれもこれも許せそうです花の昼
共に飲もう花影の死神たち
車窓にも花満つスマホ閉じたまえ
静かなる絶叫を聴く落椿
舞い落ちるひとひらは蝶舞いあがる
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2024年度
西国の終い霜とや旅支度
初島を少し浮かせて春霞
朱の椀に大蛤のあぶくかな
白魚に光の透きて海テラス
行き戻る光のあゆみ春淡し
手の平にふはりと消へし春の雪
除雪車の音に目覚めし能登の宿
冬鳥の片足立ちの岸辺かな
餌台にメジロ来ている三時かな
窓中に光の春の来てをりぬ
錠剤の転がりて起つ寒夜かな
冬ざれの牛に黄色と赤のタグ
心不全をふうはり包むカーディガン
大きく太く草千里抱く冬の虹
島原の昔話を北風に聴く
角曲がるもいちど月を見て曲がる
火の手のごとく紅葉迫る鏡池
庭に出す猫脚の椅子月今宵
束として死のある国よ望の月
細く長く棚田を区切る彼岸花
夫呼ばむ窓いっぱいに月昇る
みちのくの棚田へ降りる月の脚
天上は涼しからむに先祖来る
涼一献厳禁解けし亡父に注ぐ
風の音共鳴の音秋の鈴
藪入りや柳行李の母の衣
岩清水右手左手喜ばす
海はもう見るだけのもの夏休み
身の内の怖さ金魚を追い詰める
海鳴りの届く縁側心太
時の日の手錠のごとき腕時計
ピースてふバラ揺れ止まず戦火かな
懸命のゆっくりなんですかたつむり
梅雨の月まるくふやけて昇りけり
喉満たしボトルを満たし岩清水
岩魚串泳ぐ姿に焼かれをり
山法師咲かせて肥後の老老舗
薫風や馬駆けてくる草千里
南風を行くサイレンもしや誰ぞ逝く
滴りを集めて溢る露天の湯
片吹の風吹き落とす実梅かな
捩花の捩じり余せしうすみどり
青空に音符のごとく飛花落花
引き留める術なく桜北上す
新緑の真っ只中にケアホーム
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2025年度
山藤の濃く淡く咲く峠かな
渦潮の鳴門大橋大南風
鋭角に跳ねて狭庭の五月の陽
薫風や竜馬の立ちし桂浜
南極が小さくなったと初燕
五丁目が二丁目を訪う猫の恋
待ちわびし見頃ひんやり春の雨
片吹の柿若葉付き売り物件
かなしみにいろあるならば夕桜
しきりなる桜吹雪へ下校の児
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