2023年度
啓蟄や国会審議石の中
クローバーの四葉去年はこの辺り
卒業と別れ重なる震災地
杖の先ここにかしこに菫草
輪島より来し春塵か筆箱に
焼海苔のパリパリ折るる余寒かな
バレンタイン皺寄す口にチョコレート
ガチャガチャと循環バスの雪解道
これじゃあねどすんどすんと牡丹雪
春めくや伊豆急ホームに待ち合わす
令和六年淑気崩るる能登半島
三が日災害報道切れ目なく
木責めの木今なく雪の生家跡
逆光にきらめくダイヤ鴨の水尾
冬富士の夕日に映ゆるバスの窓
暮らし向き上りし気分千枚漬
AIに馴染めぬ二人日向ぼこ
午前二時新聞受の冴ゆる音
受診番号確認してる日短か
キウイの種歯に挟まれて冬の旅
子は父にぽっくり母に七五三
行く秋やマスク水筒ついてくる
野も山も紅葉に埋まる大八洲
枝に残る雨滴冬日にきらめける
立冬や世界に悲劇収まらず
残る虫応える虫のなかりけり
蹴とばせば煙吐き出す毒茸
錦秋に響く弦楽四重奏
浅漬けの大根噛む歯残しをり
鍵盤の音引き出して秋紡ぐ
平地斜面境目なく葡萄棚
眼閉ずればたちまち落つる虫の闇
芒梅雨というを知りたる余生かな
秋の蚊の陶器に止まる軽さかな
控えめの老生活や寝待月
閉されし忌中の家や凌霄花
空いた手を妻に通院秋立てり
朝顔や鏡に寝足りぬ朝の顔
秋立つやきらり診察女医の眼鏡
山の日や名山連なるわが故郷
つと立てる香水の香の零れ落つ
築五十年息をひそめて夜半の雷
過疎の地に甲高き声夏休
噴水を終日浴びて黒御影
サングラス外し見舞いのベルを押す
刈り上げし十薬の香の迷いゐる
盤はさむ名人戦の夏羽織
浴槽の桧の香り五月闇
灯と戯れし火蛾の静かな夜明けかな
きな臭き核の話題や黒揚羽
憲法と子供の間みどりの日
新緑の濡れて明るさ増しにけり
蓬の葉加え我が家の菖蒲風呂
地下鉄を出るや祭りに溶け込みぬ
歯磨きの清涼感や夏に入る
昭和の日昔気質のまま老ゆる
診る度に生れ日問はる残花かな
縁側の茶飲み話蝶の昼
春の雷癌細胞を抱きつつ
清明や横隔膜を働かす
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2024年度
春めくや開花予想の立ち始む
何々の日の乱発や山笑ふ
忌明けなほ残る寒さの厨かな
生きてゐしシーラカンスや春の海
バチカンの教皇も人春の風邪
豪雪に地軸の歪みなかりしや
春の雲地球自転を超えにけり
自転車を独り起こす子いぬふぐり
縁遠きすてきなバレンタインの日
新しき黒き位牌に梅一枝
手馴れたる手返し上々餅を搗く
ふぐ刺しを箸にまとめて二三枚
あれもこれも絶てり服喪の三ケ日
急逝に心乱れる初鏡
先立たれ独り見上ぐる冬の星
息白しかつては歌い切る高音
ズワイガニのキャンペーン紙面赤一色
一部屋を突き抜け届く冬至の日
笹鳴きを聞ける倖せ荒れし庭
人生を浮き沈みして柚湯かな
集めては梟と化す枯芒
水鳥の滑る縮緬銀波かな
神木のざわざわざわと神の留守
黄落後神経系のやうな枝
寄せ鍋のスクラム解かぬ榎茸
足腰に弱み抱へるそぞろ寒
新米や故郷の漬物よき合性
異常なき診察結果後の月
焦げるほど丸裸なり今日の月
中東に火柱絶えずそぞろ寒
秋暑し母の唇濡らしゐる
夏休み明けの挨拶歯の白く
設へは心ばかりの月見かな
常夏の国に列すかこの秋暑
月明りを穢し砲火の飛び交へる
いつまでも手元放せず秋団扇
夏五輪光織りなすエッフェル塔
宇宙への夢を広げる星祭
十代のメダリスト増ゆ雲の峰
家の周り集まるゴミも晩夏かな
じりじりと気温上げゆく蝉の朝
炎天や自前水分ラッパ呑み
梅雨明けや高まる雲のたたずまひ
炎帝の怒り太陽のフレアかな
炎天や木陰の鴉口を開け
炎天や海広々と水の星
口利きの無き日のありや夏の月
どんと据わる白紫陽花花の力かな
降り続く雨に植田の濁り初む
蛇の尾の草葉にすべて消ゆるまで
リハビリに選びし径は夏木立
草笛や故郷に続く茜空
何もかも伸びるのびるよ五月来る
半袖に代へる決断夏蝶来
母の日も忘るる母に届く花
盛り上がる新鋭力士五月場所
打つ雨に流るる景色春惜しむ
入学の待ち遠しくてランドセル
清明や新調スーツ初々し
故郷の風土の匂い蛙鳴く
花に酔ふこの倖せをとこしえに
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2025年度
不可解な五月病とや芥子の花
混沌の五月の空に宇宙船
筍の旬を味はふ平和な日
召物も気配りのうち新茶汲む
独り住む家となりけり姫女苑
霾るや富士山噴火に話飛ぶ
春眠の覚めて独りの春愁い
不登校児何をふらふら紋白蝶
うららかや親子二代の襲名披露
共に見し桜に独り佇めり
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